わたしだったもの
爪が伸びる。新陳代謝している証拠である。生きている証拠である。
生活上私は爪を伸ばせないので、伸びていることに気付いたら爪きりを手に取り、いらない新聞紙を床に敷き爪を切り始める。
パチ パチ パチ
小気味良いリズムとはとても言えないリズムでゆっくりと爪を切っていく。切った爪には垢だか埃だかよく分からないものが引っ付いており、ああ、私は不潔と共に生活をしているのだなと実感する。
パチ パチ パチ
爪を切るたびに、新聞紙の上、もしくは新聞紙の外に爪の破片が散らばる。
パチ パチ パチ
右手の小指まで切り終わると、新聞紙の上にはけっこうな爪の破片が集まる。中心に集め、小さな山が出来ることにも気を留めず、クシャクシャに丸めてそのままごみ箱へ。
1分前には確実に「私」であったものは今はごみ箱の中に放り込まれた名実ともに「ごみ」に他ならないものに変化してしまった。
それとも「私」だと思っていたものは本当は初めからごみの集合体でしかなかったのかもしれない。そんなことを考える深夜
伸びた爪新聞の上散らばりてかつての私はごみへと変わる